モンスター親をふるい落とす名門校の質問

 

自らの面接と、親として参加する小学校受験の最大の違い、それは家族との関わり方など私生活について細やかに語る力が求められることだ。伴侶や子どもとの関わりが試される。付け焼き刃的なノウハウでは決して突破できないのが小学校受験の面接だ。

▼面接の位置づけ 面接でチェックされるのは3つ

 

 

 

■点数よりも重視されるもの

人生の各ステージで試験や面接は避けて通れない。だが、受験や入試、転職などで成功を勝ち取ってきた猛者でさえも苦労するのは、実はわが子の小学校受験であると言われている。有名私立小学校になれば、受験倍率は10倍を超える。多数の有名小学校合格者を輩出する伸芽会教育研究所とジャック幼児教育研究所、お受験用品専門店「マムエモア」を営む郷司泰子氏に話を聞いた。


考査で学校は子どもの何を見るのか、そもそも小学校受験の試験課目はどのようなものなのか。学校やその年により違いはあるが、考査項目は大きく分けて5つある。知的理解度を判断するための「ペーパー考査」と口頭試問的な「個別考査」、身体能力を見る「運動考査」、創造力を見る「絵画製作考査」、そして他者とのコミュニケーション能力などを見る「行動観察」だ。

ジャック幼児教育研究所の大岡史直理事によれば、考査項目そのものより、その作業を通じて学校側が子どもの何を見ようとしているかをしっかり理解する必要があるという。

「例えば慶應義塾幼稚舎では、ペーパー考査も個別考査もなく、運動考査と絵画製作考査と行動観察しかありません。しかし、だからといって運動のタイムや製作物の出来ばえを厳密に測定するわけでもない。また、東洋英和女学院小学部や、青山学院初等部、田園調布雙葉小学校には附属幼稚園もあり、内部進学者がいる。その子たちは受験対策をしていない。極端なことを言えば、点数がものすごく高い子だけを合格させると、内部進学者との間にギャップを生んでしまう可能性があります。ですから、考査の点数においては学校が求めているラインを超えさえすればよいのです。

では学校側は子どもたちの何を見ているのか。それは、一番楽しそうに課題に取り組んでいる子や、なぜだか皆から応援されている子、つまり教師が『また会いたい』と興味を持つような子が選ばれるんです。慶應義塾横浜初等部はペーパー考査がありますが、そこさえ通過すれば、同様の考え方ではないでしょうか」

子どもの素質のどこを重視するかは、学校により異なる。まずは学校ごとに重視している要素を理解し、わが子に合った学校を選ぶことが大切だ。

では、そんななかで「面接」はどんな位置づけか。慶應義塾幼稚舎と慶應義塾横浜初等部、桐朋小学校と桐朋学園小学校などは面接がないが、多くの学校では面接がある。伸芽会教育研究所所長・飯田道郎氏は、「考査では調べきれない点を見る場」と定義する。

「同じような点数の子が横並びになった場合、学校はより自分たちの校風を理解したご家庭からお子さんを預かりたいと考えます。とはいえ5、6歳の幼児が将来の人生設計や家庭での生活を詳細に語ることはできません。だとすれば親から聞き出すしかない。つまり面接の場は、家庭での教育方針と、学校への理解度を知る場なのです」

大岡氏は「面接の質問には3つの柱があります。まず1つ目は親の人柄を見るための質問。これまでの生き方や教育において自負があるのは構わない。しかし同時に謙虚さや誠実さも持っているか。2つ目は、家族の輪。3つ目は、どれだけその学校に入りたいかという熱意です。学校によってどれを重視するか比重は違いますが、基本的にこの3点が見られます」と語る。


▼試験の内容は学校によって異なるがほとんどの学校で面接がある

慶應義塾幼稚舎
・運動考査・絵画製作考査・行動観察

早稲田実業学校初等部
・ペーパー考査・個別考査・運動考査・絵画製作考査・行動観察・面接(親子)

立教小学校
・個別考査・運動考査・行動観察・面接(両親)

田園調布雙葉小学校
・ペーパー考査・個別考査・行動観察・面接(親子)
※ジャック幼児教育研究所調べ。2017年12月作成。翌年以降は考査内容が変更する可能性がある。

▼面接の最新傾向 質問内容は年々難易度が上がっている

■学校創設の歴史まで遡り共感できるか

最近の就職面接では、圧迫面接より学生の本音を聞き出そうとソフト路線に転向する傾向がある。小学校受験にも最近のトレンドはあるのかという問いに、飯田氏は「いつの時代も問われるのは、家庭の教育方針、そして学校を真に理解したうえで、ぜひとも入学したいと思う熱意があるかどうか」だという。



「そもそも私立学校には創立者が掲げた理念と、連綿と積み重ねられた歴史の厚みがあります。基本的に学校方針や家庭に求めるものがガラリと変わることはありえません。ただ社会全体がグローバルで多様な人材を求めるようになった以上、私立も広く世界で活躍できる人材を輩出したいと考えます。それに伴い面接の仕方も、より家庭の本音を見抜きたいと工夫を凝らすようにはなりました」(飯田氏)

各学校が求める子どもの像は、学校説明会やパンフレットなどに示されており、わが子の資質や求める将来像と合致するか、十分読み込む必要があるという。

例えば東京女学館小学校では「すずかけ」と「つばさ」をテーマに掲げるが、これはスクールツリーの「すずかけ」で日本の伝統的価値観・文化継承を、「つばさ」の言葉で国際的に羽ばたける女性を育成するというメッセージでもある。また、特別な宗教色を打ち出していない学校でも、その背景をよく理解することは肝心だ。

「日本女子大学附属豊明小学校や、最近人気の洗足学園小学校などは、直接キリスト教色は表に出していません。でも創立者は敬虔なクリスチャンであり、あえて宗教色を前面に出さなかったのにはそれなりの理由があるわけです。もちろんそこまでは面接で聞かれませんよ。

でも単に『知り合いのお嬢さんがこちらの学校出身でとても素敵な女性に育ったので』といった志望動機しか話せない親か、学校創設の歴史的背景や根底にある精神まで理解して面接に臨んでいるのか、学校側にはしっかりと伝わります」(飯田氏)

妻や夫がその学校出身者である場合でも必ずしも有利に働くわけではない。むしろ配偶者が学校の理念を理解していなかったり、出身者が学校の理念を体現した存在に成長していなかったりすれば、面接官の目は厳しくなる。

■簡単そうで難しい質問「お父様のご趣味は」

幼児教室が増え、小学校受験のプロが面接指導を細やかに行うようになった昨今、面接でそつなく振る舞える親は増えた。だが、親の本音が見えにくくなったのも事実だ。そこで最近では予想外な質問をする学校も増えてきた。かつては「本校を志望された理由は」「ご家庭での教育方針を」といった素直な質問が多かったが、最近は「なぜ、キリスト教系の女子校を希望したのか」「(父親に向かい)奥様のどのような面を子どもに受け継いでほしいか」といった、瞬時には返せない質問が飛び出してくるようになったのだ。

あるいは一見、単純だが、字義通りの答えではNGな質問もある。

例えば、「お父様のご趣味は」と聞かれ、「ワインとゴルフです」と答える。

あるいは「最近どんなときにお子さんを褒めましたか」と聞かれ、「鉄棒ができたときです」と答えたり、反対に「どういうときにお子さんを叱りますか」と聞かれ、「命に関わるようなときには真剣に怒ります」と答えたりする。このような返答は、無意味だと大岡氏は言う。

「命に関わることで叱らない親はいません。鉄棒ができて褒めたという答えからは何もくみ取れません。趣味でワインを飲み歩き、週末はゴルフ三昧となれば、家庭で過ごす時間があるのか不安になります。面接官は親の趣味や過去の体験を知りたいわけではなく、その裏にある父子の関係を知りたいのです」

面接はいわば相手から与えられたプレゼン時間。問いはきっかけにすぎず、そこから相手に自分たちの熱意や学校への理解をどう示すかが勝敗を決する。そのために必要なのは、相手の意図を探る能力と、体験から将来までのストーリーを紡ぎだす作文的能力だ。

例えば、立教小学校などの私立一貫校は小学校入学後の受験がない分、豊富な体験を積めるカリキュラムが充実している。受験という荒波にもまれる体験は少なくなるが、その中で何を得てほしいのか、将来像まで繋がる話で面接官を納得させたい。

「仮にワインが趣味でも、『学生時代にブドウの品種を勉強し、ヨーロッパのワイナリーを巡りソムリエの資格も取った。息子にも生涯の趣味を見つけ、仕事にまで活かせる豊富な体験や知識の吸収に目覚めてもらいたい、だからこそ貴重な体験を積める場として一貫校である御校を希望した』という話ならば、面接でしっかりと伝えるべきです」(大岡氏)


■問われているのは「モンスター化するか」

 

「将来、学校と家庭との方針が食い違ったらどうするか」といった、より答えにくい質問をする学校もある。

また「子どもがいじめられていると相談してきたらどうするか」「お子さんが自分のものでない筆箱を持っていたらどうするか」といった類いの問いには、何と答えれば正解なのだろうか。とっさに浮かびそうなのは「加害者のお子さんと話し合わせます」「相手の親御さんとよく話します」「担任の先生に相談します」あたりだが、ジャック幼児教育研究所の渋谷教室・教室長の玉谷美鈴氏によると、「いずれもNG」とのこと。

「1番目の答えは、すでに相手の子を『加害者』扱いしており、最初から話を大きくしています。また、2番目のように、相手の親と話をすれば事態はこじれるだけ。3番目は問題があれば学校が何とかすべきと丸投げ宣言しているようなもの。実はどれもがモンスターペアレント予備軍の答えなんです」

では正解は何か。まずは子どもの言葉を鵜呑みにせず、よく状況を聞き出し、「明日はお友達にこう言ってみようよ」など家庭内で解決する姿勢を見せること。「それでだめなら、担任の先生にご相談申し上げます」という順序が妥当だという。

このような質問をする背景には、私立だからこそ慎重にその家庭の本質を見極めたい事情がある。

「私立は公立とは異なり、学校と家庭との付き合いが非常に長い。小学校から高校までなら12年間、幼稚園から大学までエスカレーター式なら19年間、その家庭と付き合うことになります。学校を真に理解し、近しい価値観を共有できない家庭の子どもを合格させてしまえば、後々大きな齟齬を生みかねません」(大岡氏)

両親への難問も多いが、子ども向けの質問も難問ばかりだ。

「お父様の尊敬できるところはどこですか」(早稲田実業、洗足)という質問では、「尊敬」の言葉の意味がわからない場合に面接官へ質問できるかも問われている。また、「あなたがブランコに乗ったばかりのときにお友達が代わってと言いました。どうしますか」(聖心)、「二番目になりたいものは何ですか?」(暁星)など、予期せぬ質問も多い。答えに詰まったとき、どうすればいいのか。

「その場で考えて自分の言葉で話せるかというのをチェックされているため、どんな質問にも答えを出す練習が必要です。ただ、子どもが答えられなければ、面接官は言い方を変えたりと工夫してくれます。一番いけないのは、心配した親が助け舟を出すこと。過保護な印象を与えてしまいます」(大岡氏)

工夫を凝らした質問の数々が面接の場では飛び出すが、結局必要とされているのは「聞く力」や「相手の立場や心を察する力」「自らの思いを相手に伝えられるコミュニケーション能力」ということになりそうだ。

大岡氏は、「小学校受験は『聞き取り』に始まり、『聞き取り』に終わる」と表現する。そのなかには、「子どもが親や先生の言葉を聞き取る力」に加えて、「親が子どもの言うことや学校の理念を聞き取る力」も含まれているのだろう。


▼あなたは、この難問に答えられるか
両親向け
・お父様のご趣味は何ですか
・お子様がいじめられていると相談してきたらどうしますか
・なぜキリスト教系の女子校を希望されたのですか
子ども向け
・お父様の尊敬できるところはどこですか
・あなたがブランコに乗ったばかりのときにお友達が代わってと言いました。どうしますか
・二番目になりたいものは何ですか

▼服装のポイント 目立つべきか、定番お受験服にするか


■学校への賢いアピール方法

面接時に親子は何を着ていくべきか、伸芽会教育研究所もジャック幼児教育研究所も「学校側は服装で落とそうなどとは考えていない」と口を揃える。実際に過去に親子でお揃いの茶のワンピースで臨み、合格した親子もいるという。それでも毎年似たような紺の“入試服”で多くの家庭が臨むのは、子どもが1人目立つ服装をすれば、自然と周囲の子どもから注目され、余計な緊張感で泣き出してしまう子もいるからだ。

23年にわたりお受験用品専門店「マムエモア」を営む郷司泰子氏に選んでいただいた服装を見ていこう。スタッフみなが子どもの小学校受験の経験者であるうえ、入学準備のために合格者も来店するため、最新の入試情報に合わせて細やかなアドバイスができるのだという。受験にはどんな服装がよいのか。

「『きちんと見えて動きやすいもの』、これが大前提です。基本的に受験会場に行った服装で運動考査が課されますので、服装が鍵になります。女子校はジャンパースカートが、早稲田、青学、成蹊、成城などの共学校の女子はキュロットスタイルが主流です。男の子と一緒に雑巾がけやドミノゲームをするための配慮です」(郷司氏)

着替えのある学校ならスムーズに着替えられる前開きのファスナーの服、楽に脱ぎ履きできる靴を選ぶなど、子どもの立場に立った選び方が大切だ。

受験する学校へのアピールとして、学校カラーを取り入れるのもよいという。例えば慶應受験なら、学校カラーの赤と紺のラインが入った体操着にするのもいい。

親の服装で気を付ける点はどこか。

「とにかく“控えめな服”に尽きますね。お母様はリボンなどの装飾性は一切排し、立ち姿がエレガントで、座ったときに膝が見えないAラインの紺色の服。靴やバッグ、傘もノーブランドの黒で、校庭にザクザク穴を開けるピンヒールや、折り畳み室内履きもNGです。お父様は紺の無地のごくオーソドックスなスーツとネクタイと、先が丸いストレートチップの黒の紐靴がベストです」(同)

「外見は好印象を与える大切な要素」と語る郷司氏だが、「同時に日常でやるべきこともある」と言葉を添える。

「横浜雙葉などの試験では、お弁当を食べる時間もあり、食べ方の癖も出ます。そもそも体形から日頃の食生活もわかってしまう。基本的な食育やマナー、お子さんの心身の健康面への配慮なども大切です。結局は至極まっとうなことをしているご家庭が合格するのがお受験なんです」(同)



▼男の子の面接&行動観察の服

(写真左)シャツ6000円/Vネックのベスト8000円/パンツ4900円


●白いポロシャツに、紺色のⅤネックのニットベストが基本。●股下7~8cmの短い半ズボンで、素材は伸縮性のあるものを。動きやすく利発に見える。両方にポケットがついているものを。
靴下600円/白無地の短めのソックス。リブがしっかりしているとずるずると落ちてこない。
靴3000円/脱ぎ履きしやすい面ファスナータイプを選ぼう。色は黒が基本。

▼女の子の面接&行動観察(女子校の場合)の服

(写真左)半袖ブラウス6000円/ジャンパースカート(カノニコ生地)3万3000円


●ジャンパースカートは紺色が主流。左右両方に深いポケットがついているため、ハンカチ、ティッシュを出し入れしやすい。●ひだは前だけのものがお薦め。面接でいすに座ったときにまとまりが良いうえ、行動観察でくま歩き(四つんばいになり、膝をつけずに歩く)をするときなど、裾幅が広いとスカートを踏んでしまうためだ。
靴下1200円/三つ折りソックス3枚を1カ所、刺繍で留めてある。簡単に脱ぎはきができる。
革靴9000円/脱ぎ履きしやすい面ファスナータイプを選ぼう。色は黒が基本。
オーバーパンツ1000円/オーバーパンツはブルマ型を選ぼう。ボクサーパンツ型では下着が見えてしまう。


▼学校カラーを取り入れてアピール

(写真左)女の子の行動観察服(共学用)ポロシャツ6000円/ラウンドネックのベスト8000円/キュロット(ウール)9000円


●キュロットは紺色が主流だが、受験する学校の制服の色や柄を取り入れるのでもよい。写真は、早稲田実業初等部の制服にちなんだキュロット。
(写真右)体操着セット(男女兼用)体操服上4900円/体操服下3900円

●上着は白がベースだが、ラインの色は学校や子どもの個性に合わせて選ぶ。たとえば、慶應の幼稚舎や横浜初等部を受験する場合、写真のように慶應カラーの赤と紺色のラインにするのもいい。●ズボンは紺が主流だが、たとえば慶應の体操着のズボンが白色のため、あえて白を選ぶのもよい。

▼母親の面接服

婦人スーツ4万8000円


●控えめなお母様像をつくり出すシンプルな半袖ワンピースとジャケット。色は紺が基本。●少しAラインで裾が広がっていて、椅子にかけた際に膝が出ない丈がよい。●くるみボタンやカフスなどはつけない。記名する際に邪魔になるためだ。
革ハンドバッグ1万2000円
●貴重品を入れるハンドバッグは黒色で、一本手が基本。金具など装飾のないものを選ぼう。


(フリーランスライター 三浦 愛美 撮影=村上庄吾 写真=iStock.com)



2019.1.3
プレジデントオンラインから転載